chapitre 01 Vaneau
いつ頃からだったか、もうお花を見ることさえも嫌になっていた。
日本のホテルの花屋で5年、独立して、
自分の色一色の花屋「6contents」として6年活動していた。
大きな仕事も、毎日のお店の仕事も、たくさんたくさんこなして、
無我夢中で突っ走っていた。
しかし、そんな日々の中で、もう取り返しのつかないくらいの
空虚感が大きく形をなしていた。
「自分の花には、中身がない。」
そう思い始めてから、ボクは、もう一度お花を始めた頃のように戻って、
今度は中身のある花をしっかり身につける仕事をしたいと思った。
そうしなければ、もう先に一歩も進めなかった。
そのために、大きな意味を伴う長い歴史があり、
クラシックな花とモダンなスタイルの花が共存する
フランスで出直そうと心に決め、
たくさん想いを込めた自分のお店を閉めて、
ぼくは、片道切符を手にパリにやって来た。
「エリック:ショバン」「セバスチャン:マンゴジ」「クリスチャン:モレル」
「オリビエ:ピトゥ」「ステファン:シャペル」「パスカル:ミューテル」など
、
今のパリの花業界を引っ張るそうそうたる花屋を歩いて回り、
自分の心が動いたお店に飛び込もうと思っていた。
あるお店の前で、ボクは足を止め、導かれるようにお店に入った。
そこにいるだけでとても気持ちがよくて、
花はとても生き生きとし、いつの時代かわからないような
独特のクラシックな雰囲気と、モダンな花の飾り方がなされていた。
そして、なにより、言葉では表せないような、体を包み込む優しい雰囲気が
ごちゃごちゃに絡まっていたボクの頭のひもをスルッとほどいた。
ここで働きたいと心から思えた。
花屋の名前は、「BAPTISTE」 バティストといい、
今や、パリを代表する花屋だった。
偶然その場に居合わせたオーナーは、日本から突然やって来たぼくの
言葉にひとつひとつうなずいて、ゆっくりとこう言ってくださった。
「いいですよ。いつから来ますか?」
ぼくは、間髪入れることなく、はっきりと大きな声で答えた。
「明日から来ます!」
こうして、ボクの花屋人生の第二幕が始まった。
息上がるままに、パリを一望できるモンマルトルの丘にやって来た。
今年はもう見ることがないか、と思ってやって来た桜が
サクレクール寺院の麓で満開に咲き誇っていた。
一度は辞めようかとも思っていた花屋の仕事だったけど、
それは本心じゃなかったことに気がついた。
なぜなら、涙が止まらないほど、幸せだと感じたから。